加藤彰子さん「あのあったかさはずっと母ちゃんの宝物」 | 第1回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第1回ぐるっとママ懸賞作文

加藤彰子さん「あのあったかさはずっと母ちゃんの宝物」

『頑張って生まれてきてくれた兄ちゃんのおかげで母ちゃんは母ちゃんになれて幸せな気持ちを味わえてる、ありがとう』
 

え、我慢できない、
「ねえ、お漏らししちゃったかも」
冬の夜、TVを観ながらこたつに入って布オムツを縫っている時だった。
トイレに行って座っていたらお漏らしどころかお湯がどんどん流れ出てきて、「これって、母親学級で聞いた破水ってやつ?まさかの?まだ37週なんだけど、、、」と思っているうちに量が増えてきて、ちょっと怖くなった。

「ヒデちゃん、病院にいったほうがいいみたい」

すぐに電話をして、お産のセットを持って夫婦で病院へ。感染症予防で腕に筋肉注射を打たれたり、お湯はまだまだ止まらなくて、1月の夜の病院の廊下の椅子でただただ夫婦で身を寄せ合っていた。

初めてのお産。

母ちゃんも兄ちゃんも何にも準備が出来てないのにいきなりの出来事で、お互いびっくりしたよね。

分娩室の奥に陣痛室があって、多分4人くらいの妊婦さんがウンウン唸ってた。母ちゃんも支度をして、初の筋肉注射の激痛と羊水が流れ出る不安でいっぱいの夜を過ごした。

兄ちゃんが産まれたのは次の日のお昼過ぎだったから、一人で陣痛室に居たのはそんなに長い時間じゃなかったけれど、みんながどんどん分娩室に向かうのが聞こえてくるから、母ちゃんもちょっと大きな声を出して看護師さんに気づいてもらおうとしてたなあ。

お腹も徐々に痛くなり始めてたけど、「まだ産まれないでしょう」と言われて、2本目の筋肉注射は今度はお尻。足がもげるくらい痛くて、陣痛と区別がつかなかった。

家族も入れない一人きりの部屋で、お腹の子供がどうなるのか見当もつかない未知の時間だった。

陣痛室の外は、相変わらず気忙しそうにバタバタしている音が続いて、このままだと忘れられてとんでもないことになっちゃったら嫌だ!って思ってさらに大きな声で痛い痛いとアピールをしたら、看護師さんがきてくれて、呆れた顔で分娩台に連れて行ってくれた。

もっと優しくしてよ〜〜〜

心の叫び。

足もお腹も痛いんだから分娩台に一人じゃ乗れないよ〜〜〜涙


夜から休みなくお産が続いたら、看護師さんだって疲労困憊で表情もなくなるよなあ、今だからそう思えるけど、31年前の母ちゃんにはそんな余裕はなかったよ。

いきんだり、休んだり、きっとそんなことをしてたんだろうけど、覚えてない。

兄ちゃんがなかなか出てこない。母ちゃんは筋力がないから、いきむときにバーを掴む力が無くて、全身すっかり疲労しちゃってた。

看護師さん同士で「心音が下がってる」と言ってるのが聞こえてヒヤッとした。若い女性の先生が一生懸命自分の力でなんとかしようとしていたみたいで、看護師さんがこっそり大先生に声をかけに行ってくれたんじゃないかな。大先生がいらして、ササッと指示をして、一斉に体制が変わったんだよね。

原因としては、兄ちゃんの頭のサイズと母ちゃんの産道のサイズが合わないからすんなり出てこれなかったみたいで、パチパチ切開する音が聞こえて、先生が母ちゃんのお腹の上から母ちゃんの呼吸に合わせてぎゅーぎゅー押し始めて、「もっといきんで!」と何回も言われたんだけど、こんな状態これ以上は無理っていうくらい本当に息ができなくなって苦しかった。

その時に「私が諦めたらお腹の赤ちゃんが死んじゃう」って思った。

だから頑張った。

やっと外に出てきてくれて、母ちゃんの胸に兄ちゃんをペタッとくっつけてもらった感触が信じられないくらいあったかかった。あのあったかさはいまだに忘れてないよ。ずっと母ちゃんの宝物。

一瞬の天国の後で、母ちゃんはすぐに処置が始まって、兄ちゃんは看護師さんに綺麗にしてもらって外で待ってるばあばあやお父さんのところに連れて行ってもらったんだよ。

お父さんが抱っこしてくれて「赤ちゃんでもこんなに髪の毛があるんですね」と言ったって。

頑張って生まれてきてくれた兄ちゃん。兄ちゃんのおかげで母ちゃんは母ちゃんになれてたくさん新しい経験ができて、幸せな気持ちを味わえてる、ありがとう。

 

千葉県 加藤彰子さん
題名:あのあったかさはずっと母ちゃんの宝物
子どもへ伝えたい言葉:「頑張って生まれてきてくれた兄ちゃんのおかげで母ちゃんは母ちゃんになれて幸せな気持ちを味わえてる、ありがとう」